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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)3586号 判決 1996年12月25日

原告

横野真理

斉藤元昭

萩原政彦

久保田玲子

八巻修一

武内紀子

木下八千栄

小黒裕隆

村下義男

門脇正一

紫冨田薫

鈴木隆雄

小松弘幸

萩原幹子

小倉徳子

山口朋子

右原告ら訴訟代理人弁護士

豊川義明

雪田樹里

飯高輝

右豊川義明訴訟復代理人弁護士

高橋典明

被告

日本コンベンションサービス株式会社

右代表者代表取締役

近浪廣

右訴訟代理人弁護士

西林経博

竹林節治

畑守人

中川克己

福島正

松下守男

主文

一  被告は、

原告萩原政彦に対し、金九七万七七一五円及び内金七四万〇五九五円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同八巻修一に対し、金四一七万五四五五円及び内金三四四万九八九八円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同武内紀子に対し、金三五四万四二九〇円及び内金二九七万九二九四円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同木下八千栄に対し、金四五〇万四七九二円及び内金三六八万九七〇〇円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同小黒裕隆に対し、金三〇六万九〇六四円及び内金二五六万〇五〇七円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同村下義男に対し、金二五九万二〇六七円及び内金二一四万二五六四円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同門脇正一に対し、金一一二万二八九九円及び内金九二万七八六五円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同紫冨田薫に対し、金四七八万八〇七五円及び内金三九七万五六六五円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同鈴木隆雄に対し、金二五一万三五八二円及び内金二〇六万四九五二円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同小松弘幸に対し、金二五万一五七三円及び内金一九万九六六九円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同萩原幹子に対し、金三四万一〇三七円及び内金二七万二五七一円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同山口朋子に対し、金二六六万〇〇二八円及び内金二二〇万二五二三円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

年六分の割合による各金員を支払え。

二  右原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  原告横野真理、同斉藤元昭、同久保田玲子及び同小倉徳子の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告横野真理、同斉藤元昭、同久保田玲子及び同小倉徳子と被告日本コンベンションとの間においては、右原告らの負担とし、その余の原告らと被告日本コンベンションとの間においては、これを五分し、その一を右原告らの、その余を被告日本コンベンションの各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、

原告横野真理(以下「原告横野」という。)に対し、金八三二万三七三四円及び内金七一七万八七五八円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同斉藤元昭(以下「原告斉藤」という。)に対し、金五七一万三三〇九円及び内金五〇五万八一五八円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同萩原政彦に対し、金六八九万六二七三円及び内金五九一万四七九四円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同久保田玲子(以下「原告久保田」という。)に対し、金六五六万二九七六円及び内金五五四万三四三二円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同八巻修一(以下「原告八巻」という。)に対し、金五六四万二一八一円及び内金四八九万一二二二円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同武内紀子(以下「原告武内」という。)に対し、金四七九万五九三八円及び内金四二一万〇三九七円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同木下八千栄(以下「原告木下」という。)に対し、金四八八万三七七三円及び内金四〇〇万三四一一円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同小黒裕隆(以下「原告小黒」という。)に対し、金四九六万七五一七円及び内金四三三万三一〇〇円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同村下義男(以下「原告村下」という。)に対し、金三五一万〇八三三円及び内金三〇一万九五二八円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同門脇正一(以下「原告門脇」という。)に対し、金一二二万九〇四三円及び内金一〇五万四八〇三円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同紫冨田薫(以下「原告紫冨田」という。)に対し、金六〇七万三六五一円及び内金五二七万七八八三円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同鈴木隆雄(以下「原告鈴木」という。)に対し、金三三三万八〇〇四円及び内金二八六万七七三三円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同小松弘幸(以下「原告小松」という。)に対し、金四一万二四六一円及び内金三三万三六四三円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同萩原幹子に対し、金四五万〇九〇九円及び内金三六万四一〇六円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同小倉徳子(以下「原告小倉」という。)に対し、金四〇六万四四一七円及び内金三五八万二五九一円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

同山口朋子(以下「原告山口」という。)に対し、金四一四万〇八五六円及び内金三六三万三八二七円に対する平成三年六月六日から支払済みまで

年六分の割合による各金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  被告は、国際会議、学会、イベントの企画・運営を主たる業務とする株式会社で、大阪市北区<以下、略>に関西支社を置くとともに、名古屋支店及び京都支店を有している。関西支社は、隈崎守臣支社長(以下「隈崎支社長」という。)、吉岡純二支社次長(以下「吉岡次長」という。)の下、管理課(総務課ともいう。)、会議課、通訳翻訳課、地域プロジェクト室からなり、名古屋支店及び京都支店も、組織上、関西支社の統括下にある。

(二)  原告らは、いずれも平成二年七月一五日に退職するまで(ただし、原告山口は同年四月三〇日まで)、被告の従業員であった。

(1) 原告横野は、関西支社管理課(兼会議課)に勤務し、昭和六三年二月一六日係長補佐、平成元年四月一日係長、同二年四月一日課長代理になり、本訴請求期間を通じて役職手当の支給を受けていた。

(2) 原告小倉は、京都支店に勤務し、昭和六二年一月一六日総務課課長代理、平成二年四月一日総務課課長になり、本訴請求期間を通じて役職手当の支給を受けていた。

(3) 原告斉藤は、名古屋支店に勤務し、平成元年四月一日係長補佐、同二年四月一日係長になり、同元年四月一日から役職手当の支給を受けていた。

(4) 原告萩原政彦は、関西支社会議課に勤務し、平成元年四月一日係長補佐になり、以後役職手当の支給を受けていた。

(5) 原告久保田は、関西支社会議課に勤務し、平成元年四月一日係長補佐になり、以後役職手当の支給を受けていた。

(6) 原告八巻は、関西支社通訳翻訳課に勤務し、平成二年四月一日係長補佐になり、以後役職手当の支給を受けていた。

(7) 原告紫冨田、同小松及び同萩原幹子は関西支社会議課に、同木下、同村下及び同門脇は関西支社通訳翻訳課に、同武内及び同小黒は関西支社地域プロジェクト室に、同山口は関西支社管理課に、同鈴木は名古屋支店に、それぞれ勤務していた。

2  原告木下は、平成元年五月一六日から、同小松及び同萩原幹子は、平成二年四月二日から、その余の原告らは、昭和六三年一一月一六日から、それぞれ退職するまで、被告の明示又は黙示の業務命令に基づいて、後記3のように、法定内時間外労働及び法定外時間外労働(以下、これらを合わせて「時間外労働」という。)に従事していた。

3  原告らの時間外労働時間数

(一) 被告は、原告ら従業員の勤務時間の管理をタイムカードによって行い、タイムカードの打刻を厳密に行うことを励行していたから、原告らのタイムカードに記載された時刻は、実際の業務の開始時刻及び終了時刻を正確に表すので、タイムカードにより原告らの時間外労働時間を算定することができる。

(二) もっとも、一部の原告について、タイムカードが存在しなかったり、タイムカードが存在しても記載がない場合があるが、これらの部分は、同じ業務に従事した他の原告の勤務時間を参考にしたり、原告自らのメモやスケジュールなどによって労働時間を算定することができる。その内容は、以下のとおりである。

(1) 原告横野

大抵の場合、部下の仕事が終わるのを見届けて一番最後に退社していたことから、管理課及び会議課で一緒に業務を行っていた部下、たとえば、原告萩原政彦や同久保田、同山口、同紫冨田の勤務時間を参考にしながら算定し、はっきりしない箇所については控えめな算定をした。

(2) 原告小倉

当時の自己の手帳のメモをもとに算定した。京都支店のある会館の閉館時間が午後九時であったため、午後九時に退社することが多かったが、手帳に打ち合わせやミーティング、アポイントメントの記載がある場合、その時期の会議や事務局の業務状況から終了時刻を割り出した。すなわち、記載のない場合は、始業時刻午前九時、終業時刻午後九時、実際の会議運営に当たっている場合は、終業時刻を最低限の午後五時にするという形で控え目に算定した。

(3) 原告萩原政彦

会議課で一緒に仕事をしていた原告紫冨田などのメモやスケジュールと、原告萩原政彦自身が記載していた記録などを参照しながら、総じて控え目に算定した。

(4) 原告久保田

一緒に仕事をしていた原告萩原政彦の記録や同紫冨田のメモ、会議の日程や作業記録などを参照して、当時の会議のスケジュール、進行状況、「国際花と緑の博覧会」への翻訳・制作物の提出期限などから算定した。

(5) 原告斉藤

当時の自己の手帳に記載されたミーティングやアポイントメントの時間、その内容、案件の内容やスケジュールなどから、総じて控え目に算定した。

(6) 原告小黒

原告小黒は、平成二年三月上旬より、同年四月から九月までの会期で大阪鶴見緑地で開催された「国際花と緑の博覧会」の「住友館」の常駐者となっていたが、タイムカードの存在しない同年六月、七月の期間も常駐者のままで、同人の勤務状況は、その前の期間とほとんど変化がないことから、当時のローテーションや関連行事のスケジュールなどを参考にしながら算定した。

(三) 以上によると、原告らの従事した時間外労働時間は、別冊<略、以下同じ>1(一九九二年三月二三日付け原告準備書面(二)添附の別表)のとおりとなる。

4(一)  原告らが被告に勤務していたときの勤務条件及び給与規程による時間外労働に関する規定は次のとおりであった。

(1) 勤務時間は、午前九時から午後五時までであり(うち一時間は休憩)、土曜日、日曜日を休日とする。

(2) 時間外手当については、実際の時間外勤務の計算をせず、一定額を勤務手当として支給し、その額は、平成二年四月一五日まで(同年四月支給分まで)は毎月三万円、同年四月一六日以降(同年五月支給分以降)は毎月四万円であった。

(二)  被告は、原告らが従事した時間外労働に対し、(一)(2)の給与規程により、一律三万円あるいは四万円の勤務手当(役職手当のうち勤務手当に相当する部分を含む。)を支給しただけで、その余の時間外手当を一切支給しなかった。

5(一)  したがって、原告らは、平成五年改正前労働基準法三七条一項に基づき、従事した法定外時間外労働について割増賃金請求権を有する。

(二)  また、被告の就業規則一一条及び給与規程一四条によれば、法定内時間外労働についても割増賃金が支給されると解されるから、原告らは、右条項に基づき、従事した法定内時間外労働についても割増賃金請求権を有する。

(三)  更に、4(二)のような被告の取扱は、平成五年改正前労働基準法三七条一項に違反するから、原告らは、被告に対し、法定外時間外労働につき、労働基準法一一四条に基づき付加金請求権を有する。

被告は、長期間、時間外労働時間に応じた割増賃金を支払わず、未払額も多額で、しかも、この点につき労働基準監督署の検査指導を受けながら何ら改善措置を講じていなかったのであるから、本件は、極めて悪質な事例であり、制裁の観点からも、付加金全額の支払を命じることが不可欠である。

6  割増賃金額の計算方法

時間外労働に対する割増賃金額の計算方法は、別紙1(割増賃金計算方法)<略、以下同じ>記載のとおりである。

7  割増賃金額及び付加金額

(一) 6の計算方法によって算定された原告らの時間外労働に対する割増賃金額及び付加金額(これは、平成元年五月一六日以降の法定外時間外労働の割増賃金と同額である。)は、別紙2(計算書A)<略、以下同じ>「割増賃金・付加金合計額」欄記載のとおりである。

(二) また、2(二)に基づき、原告らが受領した勤務手当の合計は、別紙3(受領勤務手当一覧表)<略、以下同じ>「合計A」欄記載のとおりである。

(三) したがって、原告らの請求額は、(一)から(二)を引いた額となり、別紙2(計算書A)「割増賃金・付加金合計額」欄(太枠部分)記載のとおりとなる。

8  よって、原告らは、被告に対し、平成五年改正前労働基準法三七条一項、就業規則一一条、給与規程一四条、労働基準法一一四条に基づき、別紙2(計算書A)「割増賃金・付加金合計額」欄(太枠部分)記載の各金員の支払を求めるとともに、同「割増賃金合計額」欄記載の各割増賃金に対する訴状送達の日の翌日である平成三年六月六日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)、(二)の(1)ないし(7)は、いずれも認める。

2  同2のうち、被告の明示又は黙示の業務命令に基づくことは否認し、その余は認める。

被告の業務は、従業員各人が一人の職人、一人のプロフェッショナルとして自分で仕事を切回していく側面が強く、業務遂行や勤務時間の管理、配分は従業員各人の裁量に委ねられている。すなわち、原告らを含め被告の従業員は、その担当する業務の進行や労働時間の配分を自己の裁量で決定し、担当する業務を所定時間内で処理するか、時間外で処理するかを自ら決定している。原告らの時間外労働の大半は、自己の裁量により行われたもので、被告が明示的又は黙示的に命じたものではない。

3(一)  同3(一)は否認する。被告は、従前、タイムカードによる時間計算によって時間外手当を支払っていたが、2で述べたように、原告らを含め被告の従業員は、その担当する業務の進行や労働時間の配分を自己の裁量で決定し、担当する業務を所定時間内で処理するか、時間外で処理するかを自ら決定していたことから、被告は、昭和五三年ころ、業務遂行における社員の裁量性を考慮して定額の勤務手当をもって時間外手当に代えることにした。被告では、その後も習慣的に社員にタイムカードを打刻させていたが、タイムカードの打刻は遅刻のチェックの意味しかなかった。

したがって、タイムカードに記載された時刻によって、原告らの労働時間の起算点、終了点とすることはできず、これをもって原告らの労働時間数を算定することは誤りである。

(二)  同3(二)のうち、一部の原告についてタイムカードがなかったり、タイムカードがあっても記載がない場合があることは認め、(1)ないし(6)は知らず、その余は否認する。

(三)  同3(三)は否認する。

4  同4(一)及び(二)は、いずれも認める。

5  同5の(一)ないし(三)は、いずれも争う。

(一) 原告らは、法定内時間外労働について、被告が天満労働基準監督署に届け出た就業規則付属の給与規程(<証拠略>)一四条一項により、割増賃金を請求しているが、右給与規程は、同労働基準監督署に届け出るためだけに作成したもので、右給与規程を含む就業規則は、関西支社の社員に周知されていなかった。また、被告は、関西支社を含めて社員に(証拠略)の給与規程を配布して給与制度を説明し、(証拠略)の給与規程の内容を社員に説明したことはなかった。

したがって、(証拠略)の給与規程は、労働者に対する周知の手続を経てなく、就業規則として原告らと被告との労働契約を規律する効力を有しない。

(二) 原告らは、付加金も請求しているが、付加金請求の申立があっても、付加金の支払を命じるか否か及び支払を命じるべき金額は、裁判所の裁量に委ねられるところ、裁判所は、合理的な範囲内で使用者が労働基準法に違反するに至った一切の事情を斟酌して適当にその支払を命じるかどうか及びその額を決定することができる。また、使用者に給付義務違反の事実が存する場合でも、使用者の違反に違法性又は責任の阻却事由が存する場合はもちろん、そうでなくても、特に右制裁を課するに値しない特段の事情の存する場合には、付加金の支払を命じるべきではない。

被告における従業員の業務は、営業、打合せ、会議運営等の外勤業務を中心とし、その業務の特性上、勤務時間の決定について従業員の裁量に任され、従業員各人が自己の裁量で時間管理、時間配分をしている。そのため、業務処理のスピードの相違や、業務に充てる時間が昼間か夜間によって、時間外手当の額に不公平が生じた。そこで、従業員を公平に処遇するため、大多数の従業員の賛同を得て、時間外手当について定額の勤務手当による方式に代えたのであり、原告を含め被告の従業員はこれを了解していた。

したがって、このような事情を斟酌すれば、被告には、付加金支払の制裁を課すに値しない特段の事情が存し、仮に被告において時間外割増賃金の未払があったとしても、これに加えて付加金の支払を命ずることは相当ではない。

6  同6は認める。

7  同7(一)及び(三)は争い、(二)は認める。

三  抗弁

1  消滅時効の主張

(一) 原告らの請求する割増賃金請求のうち、昭和六三年一二月分(同年一一月一六日から同年一二月一五日までの分で、一二月二五日が支払日)から平成元年四月分(同年三月一六日から同年四月一五日までの分で、四月二五日が支払日)までは、本訴が提起された平成三年五月一六日時点で、いずれも支払期から二年を経過した(労働基準法一一五条)。

(二) よって、被告は、右消滅時効を援用する。

2  労働基準法四一条二号の主張

(一) 原告横野は、本訴請求期間を通じて関西支社総務課の責任者であり、同小倉は、本訴請求期間を通じて京都支店総務課の責任者であり、同斉藤は、係長補佐になった平成元年四月一日から名古屋支店の責任者であった。

また、原告萩原政彦は、会議課係長補佐になった平成元年四月一日から、会議課第二グループの責任者で、同久保田も、会議課係長補佐になった平成元年四月一日から、会議課第一グループの責任者で、同八巻は、係長補佐になった同二年四月一日から、通訳翻訳課の責任者であった。

(二) このように、原告横野及び同小倉は本訴請求期間を通じて、同斉藤、同萩原政彦及び同久保田は平成元年四月から、同八巻は平成二年四月から、それぞれ係長補佐以上の役職に就き、それ以降、役職手当の支給を受けるとともに、出退勤について自己管理が認められ、タイムカードに打刻する必要もなくなった。また、右六名の原告は、それぞれ各セクションの責任者として、従業員の採用について面接をしたり、採否に関する意見を具申するなどし、役職者として一次考課者又は二次考課者として部下の人事考課を行い、さらに、部下の勤務・勤怠に関する届書に上長として承認するなど部下の労務管理に関与していた。

(三) したがって、右六名の原告らは、労働基準法四一条二号の「監督若しくは管理の地位にある者」に該当する。

3  労働基準法三八条の二第一項の主張

(一) 原告らは、本訴請求期間の大半の日において、出張や会議運営、面接運営、博覧会運営、営業、打ち合わせのため、労働時間の全部又は一部について事業場外労働に従事していた。しかも、被告は、業務遂行や勤務時間の決定を原告ら従業員各人の裁量に委ねていたのであるから、原告らが事業場外労働に従事した各労働日の労働時間を算定することは困難である。

したがって、原告らが事業場外労働に従事した各労働日は、労働基準法三八条の二第一項により所定労働時間に労働したものとみなされ、時間外労働自体が存在しないことになる。

(二) 原告らが、事業場外労働に従事した日は、別冊2(被告の平成五年七月九日付け第八準備書面別紙)記載のとおりである。

4  出張手当及び会議手当の控除

(一) 被告は、原告らの事業場外労働に対し、出張日当や会議手当などの手当を支給していたが、これらは、事業場外における時間外労働に対する手当としての性格を有している。

したがって、被告が原告らに対し、出張や会議運営といった事業場外労働について割増賃金を支払わなければならないとしても、原告らが本訴請求期間中に受領した出張日当や会議手当などを控除すべきである。

(二) 被告が原告らに支払った出張日当や会議手当などの額は、別冊2(被告の平成五年七月九日付け第八準備書面別紙)の「日当、手当」欄記載のとおりである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)及び(二)は認める。

2(一)  同2(一)は否認する。

(二)  同2(二)のうち、原告らが役職に就いていた期間及びその間役職手当の支給を受けていたことは認め、その余は否認する。

被告の関西支社では、係長以上の役職にあった者が支社全体の約三割を占め、そもそも被告の社員構成で、係長補佐というのは極めて下位の役職である。また、原告横野ら六名はいずれも経営方針の決定や労務管理に関する権限を一切与えられてなく、職務遂行についての裁量権もない。勤務時間についても、他の従業員と異なる特別な措置を受けていたことはなく、厳格な時間管理の下で業務に従事していた。

(1) 原告小倉が業務を担当していた京都支店は、関西支社長が支店長を兼務し、原告小倉が京都支店の責任者であったという事実はない。原告小倉は、支社長の指示の下で業務を遂行していたにとどまり、勤務時間についてもタイムカードを使用し、他の従業員と同様の取扱を受けていた。原告小倉の職位は、参事であるが、これは、課長や部長といったラインからはずれ、職務上の権限のない資格である。

(2) 原告横野は、課長代理の役職にあり、管理課と会議課の責任者を兼務していたが、支社長の指示の下で業務を遂行し、職務上特別の権限を与えられていた事実はない。また、被告の関西支社では、支社長が勤怠管理や有給休暇の承認、人事考課の権限を有し、原告横野は、直接部下を管理する者として、支社長の決裁や判断を助ける役割を果たしていたにすぎない。

(3) 原告斉藤が担当していた名古屋支店は、関西支社長が支店長を兼務し、関西支社長の指示の下で業務を遂行していたのであり、職務上特別の権限を有していなかった。また、勤務時間についても、他の従業員と同様に、厳格な規制に服していた。

(4) 被告は、原告萩原政彦及び同久保田が会議課第二グループ及び第一グループの責任者であったとしているが、そもそも会議課には、第一グループ、第二グループという区分が存在しなかったし、会議課の課長は、支店次長が兼務し、両名はいずれも会議課の課員として業務に従事していた。また、両名は、特別の権限を与えられていたということもなく、出退勤の自由も認められていなかった。

(5) 原告八巻が担当していた通訳翻訳課の課長は、支店次長が兼務し、原告八巻は、同人の指示の下で業務を遂行していたにすぎず、出退勤などの勤務時間についても特別に緩和されていたことはない。

(三)  同2(三)は争う。

3  抗弁3(一)は否認ないし争い、(二)は否認する。

原告らの業務内容は、いずれも内勤を中心とし、外勤業務を行う部署であっても、その割合は、全業務の一、二割程度にすぎない。しかも、原告らは、外勤業務に従事する場合、業務の遂行あるいは勤務時間について、自由に決定していたわけではない。

したがって、原告らに労働基準法三八条の二第一項の適用はない。

4  抗弁4(一)のうち、被告が原告らに対し、出張日当や会議手当などを支給していたことは認め、その余は否認ないし争う。同4(二)は認める。

このような日当や手当は、いずれも事業場外における時間外労働に対する手当としての性格を有するものではない。たとえば、会議運営手当は、会議運業(ママ)務が特別な負担を伴うものであることに対して支払われる手当であるし、博覧会場(ママ)常駐者手当は、博覧会常駐者すべてに支給されるものではなく、福岡などの遠隔地に出張してディレクターを務めなければならない場合に支給され、いわば遠隔地勤務手当の性格を有するものである。

五  再抗弁

1  消滅時効の中断

(一) 原告らは、被告に対し、平成二年一一月八日付け通知書により、昭和六三年一二月分から平成元年四月分までの時間外割増賃金の支払を求め、右通知書は、平成二年一一月九日被告に到達した。

(二) 原告らは、本訴提起に先立つ平成三年一月一六日、大阪地方裁判所にタイムカードの証拠保全を申立て、同年二月八日、大阪地方裁判所はタイムカードの検証を行った。

(三) 右証拠保全の申立ては、「裁判上の請求」ないし「仮差押、仮処分」に準ずるもので、これにより消滅時効が中断した。

(四) 仮に、右証拠保全の申立てが「裁判上の請求」ないし「仮差押、仮処分」に準ずるものではないとしても、「裁判上の催告」としての効力を有するから、平成三年五月一六日本訴を提起したことにより、消滅時効が中断した。

2  消滅時効援用権の濫用の主張

(一) 被告は、原告らの労働時間をタイムカードによって管理し、タイムカードを自ら所持し、原告らが再三タイムカードの写しを提示するよう求めても、これに応じなかった。

(二) 原告らは、平成三年一月一六日、大阪地方裁判所にタイムカードの証拠保全を申立て、同年二月八日、大阪地方裁判所はタイムカードの検証を行ったが、被告は、タイムカードの存在を認めながらも検証に応ぜず、本訴の提起がなされてから、タイムカードを提出した。

(三) このような被告の態度は、原告らの割増賃金請求に対する妨害行為であり、これにより本訴の提起が遅れた。

(四) したがって、原告らの権利行使を妨害した被告が消滅時効を援用することは、権利の濫用に当たる。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1のうち、(一)及び(二)は認め、(三)及び(四)は争う。

証拠保全の申立は、本来の訴訟手続と離れ、あらかじめこれを取り調べてその結果を保全しておくための手続で、これを実体上の権利行使と同等に評価することはできない。

したがって、証拠保全の申立をもって、「裁判上の請求」はもちろん、「仮差押又は仮処分」と同視することはできず、「裁判上の催告」としての効力を認めることも誤りである。

2(一)  再抗弁2(一)のうち、タイムカードを被告が保管していたことは認め、その余は否認する。

(二)  同2(二)は認める。被告が裁判所の検証に応じられなかったのは、被告の社員がタイムカードの保管場所を了知していなかったからにすぎない。

(三)  同2(三)は否認する。本訴の提起にタイムカードが不可欠とはいえず、現に、原告らは、タイムカードの提出や検証を経ずに本訴を提起している。

(四)  同2(四)は争う。前記二3(一)で述べたように、被告は、タイムカードによって従業員の勤務時間を管理していなかったのであるから、原告らの主張は、その前提を欠いている。

理由

一  請求原因1(一)及び(二)、同4の(一)及び(二)、同6、同7(二)は、いずれも当事者間に争いはない。同2も、被告の明示又は黙示の業務命令に基づくとの点を除き、当事者間に争いはない。

二  成立に争いのない(証拠略)、原本の存在成立とも争いのない(証拠略)、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる(証拠・人証略)、原告紫冨田及び同横野各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認定することができる。

1(一)  関西支社は、管理課(総務課)、会議課、通訳翻訳課、地域プロジェクト室からなり、隈崎支社長が管理課課長を、吉岡次長が会議課課長、通訳翻訳課課長及び地域プロジェクト室長をそれぞれ兼務していた。また、名古屋支店及び京都支店の各支店長は、隈崎支社長が兼務していた。

(二)(1)  会議課は、国際会議・国内会議に関するコンベンションサービスを所管し、その業務内容は、営業、準備業務、会議運営及び終了業務に大別できる。

営業とは、各種団体や公共機関が配付、発表する会議開催に関する一覧表などを入手し、それに基づき主催者に対してセールス活動を行い、見積書や企画書などを作成、提出するというもので、業務受注に至るまでの活動をその内容としている。

準備業務とは、業務受注後の開催準備を行うもので、主催者との打ち合わせ、スケジュールや会場使用計画の作成、プログラムの作成、資材、機材の調達計画・手配、会場の管理運営、スタッフの確保、案内書などの印刷物の制作、参加申し込みや発表論文の受付、会議担当者や機材業者など関係者との打ち合わせなどである。

会議運営とは、会議開催期間中の運営業務であり、終了業務とは、会議終了後の報告書の作成や決算、原価管理、買掛計上や売上計上、請求などである。

(2)  会議課の業務のうち、営業におけるセールス活動や会議運営業務は外勤業務であるのに対し、セールス以外の営業、準備業務、終了業務は、主として内勤業務であった。通常、会議が開催される場合、一定の準備期間を経ることから、会議課の業務も準備業務が中心で、その結果、会議課においては、内勤業務の割合が高かった。

(3)  原告らが退職した時点で、会議課に所属していたのは、原告横野、同萩原政彦、同久保田、同紫冨田、同小松及び同萩原幹子で、そのうち、原告小松及び同萩原幹子は、入社して間がないこともあって、準備業務のみを担当し、それ以外の原告らは、会議課の業務全般を担当していた。

原告らは、複数の会議案件を担当し、業務の遂行に当たっては、小さい会議などの場合、一人の担当者がすべての業務を遂行することもあったが、通常、メインとなる担当者を決め、その者を中心に他の従業員とともにチームを組んで業務を遂行していた。

(三)(1)  通訳翻訳課は、通訳部門と翻訳部門とからなり、原告らが退職した時点で、原告八巻、同木下、同村下及び同門脇が所属していた。

(2)  通訳部門の業務は、会議課と同様、営業、事前準備、当日運営及び事後処理に大別できる。

通訳部門の営業は、会議課と同様、通訳業務に関する情報を入手して、セールス活動を行い、見積書などを作成して提出するという業務受注に至るまでの活動をいうが、通訳業務の場合、会議課の営業のように、セールス活動によって業務を受注することは余りなく、会議課や地域プロジェクト室の業務の受注に伴って、通訳業務の受注を受けることが多かった。そのため、通訳部門にあっては、積極的な営業活動は余りなかった。

事前準備は、会議やイベントに際し、通訳者の確保・選任やスケジュール調整などを行うもので、会議課同様、通訳部門の業務の中心をなしていた。

当日運営は、会議の際の機材の設営や通訳者用の食事の手配などを行うもので、事後処理は、通訳料の支払や顧客に対する請求などを行うものである。

(3)  翻訳部門の業務は、営業、業務管理及び精算に大別できる。

翻訳部門の営業は、新規顧客を開拓するためのセールス業務や既存の顧客に対するセールス業務、見積書の作成、提出といった業務の受注に至るまでの活動である。翻訳部門の営業は、他の部署に比べて、セールス活動の割合が高かったものの、既存の顧客からの継続注文や、会議、イベントに伴う受注も多かったことから、翻訳業務全体に占めるセールス業務の割合は、それほど高いものではなかった。

業務管理は、翻訳者への発注、翻訳原稿のチエック、納品などであり、精算は、翻訳者や印刷会社などへの支払、発注者への請求などを行うものである。

(四)  地域プロジェクト室は、関西支社独自のもので、主として、博覧会関係のコンパニオンの管理運営業務を行う部署で、具体的には、業務の受注に際しコンペが実施される場合、コンペに提出するための企画書の作成やプレゼンテーション、業務を受注した後のコンパニオンの募集・採用・研修、博覧会期間中のコンパニオンの勤務管理、博覧会終了後の売上計画、請求などを業務とし、このうち、コンペに提出するための企画書の作成、業務受注後のコンパニオンの募集・採用・研修が、業務の中心であった。

原告らが退職した時点で、地域プロジェクト室に所属していたのは、原告武内及び同小黒であるが、地域プロジェクト室の専任者が三名しかいなかったため、原告紫冨田や同山口など他の課の従業員が地域プロジェクト室の業務を兼務していた。

(五)  管理課(総務課)は、関西支社の営業部門以外のすべての業務、総務、経理、人事などを担当し、原告らのうち、原告横野及び同山口が所属していた。もっとも、本訴請求期間中、原告横野は会議課にも所属し、同山口は地域プロジェクト室の業務も兼務していた

(六)  京都支店は、主に、国際会議や医学会の参加登録準備を含めた管理運営業務、学会の事務局業務を行い、原告小倉が責任者で、他に二名の社員がいた。学会の事務局業務とは、公益法人日本内分泌学会の事務局が行う業務を代行するもので、毎年行われる総会や理事会の準備・運営、学会の会員管理や会員への連絡などである。

(七)  名古屋支店は、関西支社会議課及び通訳翻訳部門と同様の業務を行っていたが、会議に関しては国内会議を主とし、名古屋地域で開催される大規模な会議を受注した場合、名古屋支店だけでなく、関西支社全体で業務を遂行していた。名古屋支店の責任者は、原告斉藤で、同鈴木も名古屋支店に所属していた。

2(一)  原告ら従業員は、一つの業務のみを遂行するということはなく、常時複数の案件を担当したり、複数の部署を兼務していたため、複数の業務を平行して行っていた。

(二)  原告らの業務には、外勤業務も含まれていたが、原告らが外勤業務に従事する場合、他の顧客からの連絡に対処するため、関西支社内に設置された黒板に外出先や帰社予定時刻などを記入することになっていて、外出が長引く場合には、会社に電話連絡することになっていた。

(三)  原告らのうち、同横野、同小倉、同斉藤、同萩原政彦、同久保田、同武内及び同八巻は、上長として他の従業員の労働時間などを管理する立場にあったが、上長としての業務のみを行っていたわけではなく、他の従業員と同様の業務に従事し、業務の実態からすれば、上長も他の従業員も何ら異なるものではなかった。

また、被告には、原告ら一般社員とは別に契約社員が存在していたが、契約社員の業務内容も、一般社員と何ら変わらず、一般社員とともに業務を遂行していた。

3(一)  被告は、従来、従業員の時間外労働に対し、時間計算による時間外手当を支給していたが、昭和五三年ころ、従業員間の公平を確保するとともに人件費を抑制するため、時間外手当に代えて、定額の勤務手当を支払うようになった。しかし、被告は、その後も、タイムカードを設置し、昭和六三年にはアマノ製のタイムカードシステムを導入するなどして、タイムカードによる勤務時間の管理を行い、従業員も、従前どおり、出退勤に際しタイムカードに打刻していた。

もっとも、定額の勤務手当の支給は、原告ら一般社員についてのみ適用され、契約社員については、従前どおり、タイムカードに基づく時間外手当の支給を行っていた。

(二)  被告では、時間外手当を支給していた当時から、課長代理以上の役職者は、タイムカードに打刻しなくてもよいという扱いを認め、その後その範囲が広がり、原告らが退職した時点で、係長補佐以上の役職者について、そのような扱いが認められていた。そのため、原告らのうち、同横野及び同小倉は、存在するタイムカードのほとんどに打刻がなく、同久保田も、平成二年一月分以降のタイムカードについて、そのほとんどに打刻がない。

(三)  時間外手当から勤務手当に変更された後も、被告の従業員は、タイムカードに打刻していたが、関西支社、名古屋支店及び京都支店で打刻されたタイムカードの内容は、管理課が一か月ごとに集計して本社に送付し、アマノ製のタイムカードが導入された後は、タイムレコーダーと本社とがオンラインで繋がり、逐次その内容が本社に送付されていた。

もっとも、関西支社、名古屋支店及び京都支店の従業員の人事考課や有給休暇の承認などは、関西支社が行っていたことから、タイムカードそのものは関西支社で保管していた。

4(一)  隈崎支社長は、昭和六〇年九月に関西支社長に就任した後、関西支社の営業面と組織面の改革に着手し、組織面では、職場規律を確立するため、従前ルーズであったタイムカードの打刻を厳密に行うよう指示するとともに、タイムカードの管理を管理課の責任とした。

すなわち、タイムカードの打刻漏れや打刻時間に訂正が生じた場合、従業員は、その理由と正規の時刻を「届書」に記載して所属の上長の承認を得、更にその届書を管理課に提出して支社長の承認を得た後、管理課がタイムカードに時刻を記入、訂正するようにした。また、自宅から直接取引先や現場などに行く場合(直行)や、取引先や現場などから会社に戻らないで直接帰宅する場合(直帰)も、事前に届書を所属の上長に提出してその承認を得、それを管理課に提出して、管理課がタイムカードに時刻を手書きするようにし、事前に届出ができない場合は、電話連絡をした上、事後に同様の手続をとるようにした。そして、会議課では、原告横野、同萩原政彦及び同久保田が、通訳翻訳課では同八巻が、地域プロジェクト室では同武内が、それぞれ上長として承認を与え、京都支店では同小倉が、名古屋支店では同斉藤が、上長として承認を与えていた。

もっとも、実際の運用は、厳格に行われていたわけではなく、従業員は、届書に記載をして上長の承認を得て、自らタイムカードに時刻を手書きしたり、上長の承認を得ることなく自らタイムカードに時刻を手書きし、後に上長がそれを承認するということも行われていて、管理課がすべてタイムカードに時刻を記入、訂正していたわけではなく、支社長の承認がなくても、タイムカードへの記載はなされていた。しかし、それでもタイムカードへの打刻そのものは、ほぼ、怠りなく正確に行われていて、関西支社、名古屋支店及び京都支店では、基本的にタイムカードによって従業員の勤務時間が管理されていた。

(二)  隈崎支社長は、関西支社の組織面だけでなく、新たに地域プロジェクト室を設置するなどして営業面の改革も行い、その結果、関西支社の業績を順調に伸ばしたが、反面、従業員の仕事量も増大し、原告らを含めた関西支社、名古屋支店及び京都支店の従業員は、恒常的に時間外労働に従事していた。被告の就業規則上、従業員が時間外労働に従事する場合、その旨の届けを出して承認を得ることになっていたが、時間外労働が常態化していることもあって、原告ら従業員は、そのような手続を経ることなく、時間外労働に従事していた。

(三)  そして、このような仕事量の増大による時間外労働の常態化は、関西支社だけでなく、本社でも同様であったことから、近浪廣社長ら役員は、時間外労働に対し定額の勤務手当の支給では、労働基準法に違反するおそれがあると考え、労働時間数に応じた時間外手当の支給制度の実施を検討し、平成二年二月五日の特別朝礼において、同年四月から右制度を実施に移して時間外手当を支給することを明らかにした。

もっとも、原告らが在職した平成二年七月一五日までには、右制度の実施に至らず、時間外手当の支給は行われなかった。

三  請求原因2(被告の業務命令の有無)について

前記二4(二)で述べたように、原告らは、仕事量の増大により時間外労働に従事せざるを得ない状況にあったのであるから、原告らが従事した時間外労働は、被告の黙示の業務命令に基づくものというべきである。

これに対し、被告は、原告らは、担当する業務の進行や労働時間の配分を自らの裁量で決定していたのであるから、原告らの時間外労働の大半は、自己の裁量によるものであると主張し、(証拠・人証略)によれば、右主張に沿う記載及び証言がある。

しかし、(証拠略)によれば、(人証略)は、本訴請求期間中、本社の経営企画室長を勤(ママ)め、関西支社、名古屋支店及び京都支店に関わりを有していたわけではないから、原告らの労働実態について正しい認識を持っていたとは考えられず、したがって、この点に関する同人の証言や同人作成の(証拠略)の記載は信用性に乏しいといわざるを得ない。また、(証拠略)及び(人証略)の証言によっても、勤務時間について従業員に裁量が認められていたかどうかまでは明らかではなく、むしろ、(人証略)の証言によれば、原告ら従業員が時間外労働に従事せざるを得ない状況にあったことがうかがわれる。

したがって、これらの記載及び証言は、前記認定を覆すものではない。

四  請求原因3について

1  前記二で認定したように、被告は、従前、時間外労働に対し時間外手当を支給していたこと、時間外手当から定額の勤務手当に代えた後もタイムカードを設置し、従業員はタイムカードへの打刻を行っていたこと、関西支社では、隈崎支社長の指示により、タイムカードによる勤務時間の管理を厳密に行い、現に一部の原告を除き、原告らは、タイムカードへの打刻を継続的に行い、打刻漏れや直行、直帰などにより打刻できない場合、後に自ら手書きをしたり、管理課が記入するなどしてタイムカードへの記載を怠っていないこと、原告らの業務内容からすると、タイムカードによる勤務時間の管理は十分可能で、現に原告らと同様の業務に従事していた契約社員は、タイムカードに基づいて時間外手当の支給を受けていたこと、(証拠略)(タイムカード)に記載されている時刻をみても、原告らの労働実態に合致し、何ら不自然なものではないことからすると、タイムカードに基づいて原告らの時間外労働時間を算定することができるというべきである。

これに対し、被告は、時間外手当から定額の勤務手当に代えた後、タイムカードの打刻は遅刻をチェックする意味しかないのであるから、タイムカードに記載された時刻をもって、原告らの労働時間を算定することはできないと主張し、(証拠・人証略)によれば、右主張に沿う記載及び証言がなされている。

しかし、タイムカードの打刻が遅刻をチェックする意味しかないからといって、そのことからタイムカードの記載が従業員の労働時間の実態を反映していないということにはならないし、既に述べたように、原告らの労働実態について正しい認識を持っていたことに疑問のある(人証略)の証言や同人作成の(証拠略)の記載は、信用性に乏しいものである。また、(証拠・人証略)によれば、タイムカードへの打刻を遅刻のチェックと見ていた従業員が存在したことは認められるものの、これらの記載や証言によっても、タイムカードへの打刻は継続的に行われ、それがルーズに行われていたとはいえないのであるから、これらの記載及び証言をもって、タイムカードの記載の信用性が損なわれるものでもない。

したがって、これらの記載及び証言によっても前記認定を覆すものではなく、タイムカードに基づいて、原告らが従事した時間外労働時間を算定することができるというべきである。

2  このように、タイムカードが、原告らの労働実態に合致し、時間外労働時間を算定する基礎となる以上、タイムカードの記載と実際の労働時間とが異なることにつき特段の立証がない限り、タイムカードの記載に従って、原告らの労働時間を認定すべきである。

もっとも、タイムカードの記載には、タイムレコーダーによって打刻されたものだけでなく、手書きによるものもあり、始業時刻あるいは終業時刻の一方しか記載がないものもある。そこで、これらの取扱が問題となる。

(一)  タイムカードの記載がタイムレコーダーによって打刻されている場合、特段の立証がない限り、その記載をもって始業時刻、終業時刻と認定すべきであるが、手書きされている場合も、これと同様に扱うべきである。なぜなら、前記二4(一)で認定したように、管理課が手書きしたものは、正規の手続を経て記載されたものであるし、従業員自らが手書きしたものも、事前にあるいは事後に上長の承認を得ているからである。もっとも、上長自らの分については、その上司の承認が必ずしもあるわけではないが、タイムカードに打刻された内容を見る限り、特に不自然なところはないから、同様に扱うべきである。

(二)  タイムカードに始業時刻の記載しかなく、終業時刻の記載がない場合、それが平日であれば、始業時刻から午後五時まで勤務していたと考えられる。したがって、特段の立証がない限り、時間外労働をした事実を認定することはできない。これに対し、休日の場合、平日と異なり、終業時刻がまちまちであることから、始業時刻の記載があっても、終業時刻の記載がない以上、特段の立証がない限り、時間外労働時間を認定することはできない。

また、終業時刻の記載しかない場合、それが平日であれば、通常の始業時刻から勤務を開始したと考えられるので、その記載に従って時間外労働時間を認定することができる。しかし、休日の場合、平日と異なり、始業時刻がまちまちであることから、始業時刻についての立証がない限り、時間外労働時間を認定することはできない。

(三)  原告らは、休日に勤務した場合、昼食時の休憩時間として一時間を控除して労働時間数を算定しているが、平日及び休日の夕食時の休憩時間について控除していない。(証拠・人証略)、原告紫冨田本人尋問の結果によれば、被告では、夕食は、会社内で取ることになっていて、実際に関西支社でもそのように行われていたことが認められるから、特段の立証がない限り、夕食時の休憩時間を控除する必要はないというべきである。

(四)  原告らのうち、同横野、同斉藤、同萩原政彦、同久保田、同小黒及び同小倉について、本訴請求期間中のタイムカードが一部なかったり、タイムカードが存在しても記載のない場合がある。

そこで、これらの部分の労働時間の算定が問題となる。

(1) 原告小倉について

原告小倉は、当時の自己の手帳のメモとともに、京都支店のある会館の閉館時間が午後九時であったことを考慮し、手帳に打ち合わせやミーティング、アポイントメントの記載がある場合、その時期の会議や事務局の業務状況から終業時刻を割り出し、これらの記載がない場合、始業時刻午前九時、終業時刻午後九時とし、実際の会議運営に当たっている場合、終業時刻を最低限の午後五時にして、時間外労働時間を算定したと主張する。

(証拠略)(原告小倉の報告書)によれば、京都支店のあった青蓮会館の閉館時間が午後九時であったことを認めることができる。しかし、原告小倉が青蓮会館の閉館時間すぎまで勤務していたとの(証拠略)の記載について、それを裏付ける客観的な証拠はない。

また、原告小倉の当時の手帳である(証拠略)によれば、本訴請求期間中の勤務時間が記され、成立に争いのない(証拠略)によれば、平日部分の時刻の記入は、本件請求を行う際に原告小倉が書き込んだもので、休日部分の時刻の記入の多くは、当時書き込んだものであるとされている。そのため、平日部分の時刻の記入は、その記載の信用性に疑問があり、また、休日部分の時刻の記入についても、それが当時書き込まれたものであることを裏付ける証拠はない。

してみると、これらによって、タイムカードのない部分及びタイムカードが存在しても記載がない部分の時間外労働時間を算定することはできず、他に原告小倉の主張を認めるに足る証拠もない。

(2) 原告斉藤について

原告斉藤は、当時の自己の手帳に記載されたミーティングやアポイントメントの時間、その内容、案件の内容やスケジュールなどから、時間外労働時間を算定したと主張し、原本の存在成立とも争いのない(証拠略)、成立に争いのない(証拠略)によれば、右主張に沿う記載がある。

しかし、(証拠略)によれば、当時の原告斉藤の手帳である(証拠略)に記載された時刻は、本件請求のため、後日記載されたものであって、その信用性に疑問があり、それを裏付ける客観的な証拠はない。

したがって、これらによって、タイムカードのない部分及びタイムカードが存在しても記載がない部分の時間外労働時間を算定することはできず、他に原告斉藤の主張を認めるに足る証拠もない。

(3) 原告萩原政彦について

原告萩原政彦は、会議課で一緒に仕事をしていた原告紫冨田などのメモやスケジュールと、原告萩原政彦自身が記載していた記録などを参照しながら、時間外労働時間を算定したと主張し、(証拠略)によれば、右主張に沿う記載がある。

しかし、算定の基礎としたメモやスケジュール、原告萩原政彦自身が記載していた記録などについて、その存否や内容は不明であるし、他に同原告の主張を認めるに足る証拠もない。

(4) 原告久保田について

原告久保田は、一緒に仕事をしていた同萩原政彦の記録や同紫冨田のメモ、会議の日程や作業記録などを参照して、当時の会議のスケジュール、進行状況、「国際花と緑の博覧会」への翻訳・制作物の提出期限などから、労働時間を算定したと主張し、(証拠略)によれば、右主張に沿う記載がなされている。

しかし、右記載を裏付ける客観的な証拠はなく、他に原告久保田の主張を認めるに足る証拠もない。

(5) 原告横野について

原告横野は、大抵の場合、部下の仕事が終わるのを見届けて一番最後に退社していたことから、管理課及び会議課で一緒に業務を行っていた部下、例えば、原告萩原政彦、同久保田、同山口及び同紫冨田の勤務時間を参考にしながら算定し、はっきりしない箇所については控えめな算定をしたと主張し、原告横野本人尋問の結果によれば、右主張に沿う供述がある。

しかし、原告横野が一番最後に退社していたとの事実について、それを裏付ける客観的な証拠はなく、仮にそのような事実があったとしても、そのことから直ちに日々の終業時刻が導かれるわけではない。また、同僚の勤務時間を参考にしたとしても、そのことから、原告横野の日々の勤務時間が確定するものでもない。

したがって、原告横野についても、タイムカードのない部分及びタイムカードが存在しても記載がない部分の時間外労働時間を算定することはできず、他に同原告の主張を認めるに足る証拠もない。

(6) 原告小黒について

原告小黒は、平成二年三月上旬より、同年四月から九月までの会期で大阪鶴見緑地で開催された「国際花と緑の博覧会」の「住友館」の常駐者となっていたが、タイムカードの存在しない同年六月、七月の期間も常駐者として同人の勤務状況は、その前の期間とほとんど変化がなかったことから、当時のローテーションや関連行事のスケジュールなどを参考にしながら算定したと主張する。

しかし、原告小黒が、平成二年六月、七月に「国際花と緑の博覧会」の「住友館」の常駐者となっていたことを認めるに足る証拠はなく、仮にこの事実が認めれ(ママ)られたとしても、そのことによって日々の勤務時間が確定するわけでもない。

したがって、原告小黒についても、タイムカードのない部分の時間外労働時間を算定することはできず、他に同原告の主張を認めるに足る証拠もない。

(五)  このようにタイムカードのない部分及びタイムカードが存在しても記載がない部分について、原告らの時間外労働時間を算定することはできず、原告らが従事した時間外労働時間の算定に当たっては、特段の立証がない限り、タイムカードの記載のみによるべきことになる。また、原告らが代休を取った場合、そのことがタイムカード上明らかであれば、時間外労働時間から控除すべきである(これは、原告らも認めるところである。)。

以上から、原告らが従事した本訴請求期間中の時間外労働時間を認定すると、別冊3記載のとおりで、原告らの本訴請求期間中の時間外労働時間数を月別に集計すると(代休分は控除済み)、別紙4の1ないし16(時間外労働時間数)<略、以下同じ>記載のとおりとなる。

五1  被告は、原告らが時間外労働に従事したにもかかわらず、定額の勤務手当を支給しただけで、労働時間数に従った手当を支給していなかったのであるから、原告らは、被告に対し、平成五年改正前労働基準法三七条一項に基づき、法定外時間外労働につき割増賃金請求権を有する。

2(一)  また、(証拠略)によれば、被告の就業規則一一条一項は「業務の都合により所定時間外に勤務させることがある。」と規定し、同条四項は「時間外勤務に対する賃金は、給与規程第一四条に定める。」と規定するとともに、被告の給与規程一四条は、これらの規定を受けて割増賃金の計算式を規定している。そして、このような条項の規定の仕方からすると、時間外労働に対する賃金の支払について、就業規則上、法定内時間外労働か法定外時間外労働かによって区別をしているわけではないから、法定内時間外労働についても割増賃金を支払う趣旨と考えられる。

(二)  これに対し、被告は、右給与規程(<証拠略>)は、天満労働基準監督署に届け出るためだけに作成したもので、右給与規程を含む就業規則は、関西支社の社員に周知されていなかったし、その内容を従業員に説明したこともなかったのであるから、右給与規程(<証拠略>)は、労働者に対する周知の手続を経てなく、就業規則として原告らと被告との労働契約を規律する効力を有しないと主張する。

(証拠・人証略)によれば、(証拠略)の給与規程は、昭和六〇年七月、天満労働基準監督署から是正勧告を受けて作成し、その際、従業員の意見の聴取や、従業員への周知をしていないことを認めることができる。

しかし、従業員の意見聴取や周知の手続をとっていないからといって、そのことから直ちに給与規程の効力がないとはいえないし、そもそもこのような手続が必要とされたのは、就業規則の作成・変更について労働者の意見を述べる機会を与えようとする趣旨であるから、使用者が、そのような手続を経ていないことを理由に、その効力を否定することは許されないというべきである。

したがって、被告の主張には理由がない。

(三)  付加金について

被告が定額の勤務手当を支給しただけで、労働時間数に従った手当を支給していなかったことは、平成五年改正前労働基準法三七条一項に違反する。

そして、被告は、原告らの時間外労働が常態化していたにもかかわらず、定額の勤務手当を支給しただけで、しかも、そのような状態を長期間放置していたことからすると、本件について、被告に付加金を課すのが相当というべきである。

これに対し、被告は、従業員の業務の特質から、従業員の公平を確保するため、大多数の従業員の賛同を得て、時間外手当について定額の勤務手当による方式をとったのであり、原告を含め被告の従業員はこれを了解していたと主張する。

しかし、前記二3(一)で認定したように、定額の勤務手当に代えたのは、従業員間の公平の確保のみならず、人件費の抑制という面もあり、また、被告自身、従業員の時間外労働が常態化し、定額の勤務手当では、労働基準法に違反することを認識して、時間外手当の支給を検討していたことからすると、このような事情だけでは、付加金の支払を命じないとすることはできず、被告の主張は理由がない。

六  原告らが従事した時間外労働時間数から、別紙1の計算方法に従って、原告らの割増賃金額及び付加金額を計算し、原告らが既に受領した勤務手当を控除すると、別紙5(計算書B)<略>割増賃金・付加金合計額欄記載(太枠部分)のとおりとなる。

その結果、原告横野及び同小倉の割増賃金請求権は発生せず、その余の点を判断するまでもなく、右原告らの請求は理由がない。

七  抗弁について

1  消滅時効について

(一)  抗弁(一)及び(二)は、当事者間に争いはない。

(二)  再抗弁1(消滅時効の中断)について

(1) 再抗弁1(一)及び(二)は、当事者間に争いはない。

(2) 原告らは、証拠保全の申立が民法一四七条一号にいう「請求」ないし同条二号にいう「仮差押、仮処分」に準じるものとして、時効中断の効力を有すると主張する。

「請求」に時効中断の効力が認められるのは、それが権利の主張であるとともに、裁判所によって権利の存在が確定されるからであり、また、「仮処分、仮差押」に時効中断の効力が認められるのは、それらが現実的な権利行使であって、それらの手続を通じて権利の存在がある程度公に確認されるからである。しかるに、証拠保全の申立は、権利の行使そのものではなく、権利を行使するための準備行為すぎず、これにより権利の存在が公に確認されるわけでもない。

したがって、証拠保全の申立をもって、「請求」ないし「仮処分、仮差押」に準じるものということはできない。

(3) さらに、原告らは、証拠保全の申立が「請求」ないし「仮差押、仮処分」に準ずるものではないとしても、「裁判上の催告」としての効力を有すると主張する。

しかし、「裁判上の催告」は、本案訴訟における権利の主張について認められるもので、証拠保全の申立は、本案訴訟の準備行為にすぎないから、証拠保全の申立に「裁判上の催告」としての効力を認めることはできない。

(三)  再抗弁2(消滅時効援用権の濫用)について

原告らは、被告が原告らのタイムカードを所持しながら、原告らの提示要求にも、証拠保全の際も提示に応じなかったことをもって、原告らの割増賃金請求に対する妨害行為であるとし、このような被告が消滅時効を援用することは、権利の濫用に当たると主張する。

しかし、原告らが、被告に対し、タイムカードの提示を要求したからといって、被告がそれに応じなければならないわけではなく、証拠保全の際タイムカードの検証ができなかったからといって、そのことから直ちに原告らの権利行為(ママ)に対する妨害行為になるわけでもない。

したがって、原告らの主張をもって、被告の消滅時効の援用が権利の濫用であるということはできず、他に被(ママ)告の主張を認めるに足る証拠はない。

(四)  したがって、原告らの再抗弁はいずれも理由がなく、原告ら(同横野及び同小倉を除く。)の請求する割増賃金請求のうち、昭和六三年一二月分(同年一一月一六日から同年一二月一五日までの分で、同月二五日が支払日)から平成元年四月分(同年三月一六日から同年四月一五日までの分で、同月二五日が支払日)までは、時効により消滅したというべきである。

2  労働基準法四一条二号の主張について

(一)  抗弁2(二)のうち、原告斉藤、同萩原政彦、同久保田及び同八巻(以下「原告斉藤ら」という。)が被告主張の役職に就いていて、その間、役職手当の支給を受けていたことは、当事者間に争いがない。また、原告斉藤らは、それぞれの役職に就いた後、タイムカードに打刻しなくてもよいという取扱を受けるとともに、部下の勤務・勤怠に関する届書に上長として承認を与えていた。さらに、成立に争いのない(証拠・人証略)及び原告横野本人尋問の結果によれば、原告斉藤らは、一次考課者又は二次考課者として部下の人事考課に関与していたことも認めることができる。

しかし、被告が主張するように、原告斉藤らが従業員の採用に際し面接をしたり、採否に関する意見を具申していたことを認めるに足る証拠はない。また、原告斉藤らは、業務量の増大により時間外労働に従事せざるを得ない状況にあり、出退勤の自由が認められていたわけではなく、従事していた業務の内容も、他の従業員と異なるものではなかった。

(二)  ところで、労働基準法四一条二号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいい、管理監督者に当たるかどうかは、その名称にかかわらず、実態に即して判断すべきである。そして、前記(一)によれば、原告斉藤らが、それぞれの課や支店において、責任者としての地位にあったことは認められるものの、他の従業員と同様の業務に従事し、出退勤の自由もなかったのであるから、経営者と一体的立場にあるとまではいえない。

したがって、原告斉藤らは、労働基準法四一条二号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」には当たらず、被告の抗弁は理由がない。

3  労働基準法三八条の二第一項の主張について

被告は、原告らが、本訴請求期間の大半を事業場外労働に従事し、しかも、業務遂行や勤務時間を自ら決定していたのであるから、原告らが事業場外労働に従事した各労働日の労働時間を算定することは困難であるとして、労働基準法三八条の二第一項により、時間外労働自体存在しないと主張する。

しかし、前記二1のような原告らの業務内容からすると、原告らの業務は、内勤業務を中心とし、外勤業務の割合は少なかったと考えられ、被告が主張するように、本訴請求期間の大半を事業場外労働に従事していたとはいえない。

また、原告らが外勤業務の(ママ)従事した場合にもタイムカードへの打刻はなされ、原告らと同様の業務に従事していた契約社員は、タイムカードに基づいて時間外手当が支給されていたのであるから、原告らの勤務時間は、タイムカードによって把握できるし、実際にもタイムカードによって勤務時間が管理されていた。この点、被告は、原告らがその勤務時間を自ら決定していたと主張するが、仕事量の増大により、原告らの時間外労働が常態化していた労働実態に照らせば、そのようなことがないことは明らかであり、他に右主張を認めるに足る証拠はない。

したがって、原告らが、勤務時間の算定が困難な事業場外労働に従事していたとはいえず、被告の抗弁は理由がない。

4  出張手(ママ)当及び会議手当の控除について

被告は、原告らの事業場外労働に対し、出張日当や会議手当などの手当を支給し、これらは、事業場外における時間外労働に対する手当としての性格を有しているから、原告らが本訴請求期間中に受領した出張日当や会議手当などを控除すべきであると主張する。

原告らが、本訴請求期間中、被告から出張日当や会議手当を受領していたことは当事者間に争いはなく、また、(証拠略)、原本の存在成立とも争いのない(証拠・人証略)及び原告横野本人尋問の結果によれば、被告は、定額の勤務手当とは別に、出張日当を支給するとともに、会議運営業務の困難さを考慮して会議手当を支給していたこと、これらの手当は、支給条件を異にし、出張日当や会議手当は、勤務手当の支給対象者でない取締役にも支給されていたことを認めることができる。

そして、勤務手当と出張日当、会議手当とは、その支給目的、支給条件及び支給対象者を異にしていたのであるから、出張日当や会議手当は、時間外労働に対する手当としての性質を有するものではないというべきである。

したがって、被告の抗弁は理由がない。

八  以上から、原告らの割増賃金請求は、平成元年五月分(同年四月一六日から同年五月一五日までの分で、同月二五日が支払日)以降について認めることができ、同月分以降の割増賃金額及び付加金額を計算すると、別紙6(計算書C)<略、以下同じ>記載のとおりとなり(その結果、原告斉藤元昭及び同久保田の割増賃金請求権はいずれも発生しない。)、そこから平成元年五月一六日以降原告らが受領した勤務手当(別紙3の「合計B」欄)を控除すると、別紙6(計算書C)「割増賃金・付加金合計額」欄(太枠部分)記載のとおりとなる。

九  結論

よって、原告横野、同斉藤、同久保田及び同小倉の請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却し、その余の原告らの請求は、前記認定の限度でいずれも理由があるので、右限度でこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項をそれぞれ適用して(なお、仮執行宣言はこれを付さない。)、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中路義彦 裁判官 末吉幹和 裁判官 井上泰人)

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